レパートリー作品&振付家
Experience the Art of Great Repertoireシガレット(白の組曲より)
「Suite en Blanc」は、1943年にフランスの振付家 Serge Lifar によって創作された、物語を持たないクラシック・バレエ作品です。音楽はフランスの作曲家 Édouard Lalo によるもので、気品と緊張感を併せ持つ旋律が作品全体を支えています。 白い衣裳に身を包んだダンサーたちは、装飾的な演出や物語的表現に頼ることなく、純粋なクラシック・テクニックと様式美そのものを提示します。そのため本作では、正確なポジション、明晰なエポールマン、洗練されたライン、そして高度な音楽性が強く求められます。 本作品は Paris Opera Ballet の代表的レパートリーのひとつとして知られ、現在も世界の主要バレエ団で上演され続けています。物語が存在しないからこそ、ダンサーの身体そのものが舞台上の表現となり、“バレエという芸術の純度”が問われる作品です。 本ワークショップでは、《Suite en Blanc》の中から“シガレット”のヴァリエーションに取り組みます。前回は同作品より“フルート”を取り上げましたが、今回はよりシャープで洗練された質感を持つ踊りを通して、作品の異なる側面に触れます。 “シガレット”は、細やかで速い脚さばきの正確性に加え、明確なエポールマンと上半身の統制、そして音楽のアクセントに即応する身体のコントロールが求められるヴァリエーションです。軽やかさの中にも緊張感と構築性が求められ、単なる技巧ではなく、クラシック様式そのものの理解が動きの質として表れます。 物語を持たない《Suite en Blanc》において、それぞれのヴァリエーションは純粋に舞踊のスタイルと個性を際立たせる存在です。“シガレット”はその中でも、精緻さと気品、そして研ぎ澄まされたクラシックの美を象徴する一曲といえるでしょう。 Trailer:Dancer/Agnès Letestu
ジェームズのVa.(ピエール・ラコット版/ラ・シルフィードより)
《La Sylphide》は、19世紀ロマンティック・バレエを代表する作品のひとつで、1832年にパリで初演されました。幻想的な存在であるシルフィード(空気の精)と青年ジェームズの出会いと悲劇を描いたこの作品は、ロマンティック・バレエ様式の成立を象徴する重要な作品として知られています。 現在上演されているピエール・ラコット版は、失われていた当時の資料や記録をもとに、振付家 Pierre Lacotte が19世紀の様式を丹念に再構築したものです。装飾的な技巧よりも、柔らかな上半身の表現、繊細な足運び、そして物語と密接に結びついた演技性が重視され、ロマンティック・バレエ特有の詩的な世界観が色濃く表れています。 ジェームズのヴァリエーションは、若き貴族である主人公の内面を映し出す踊りであり、軽快な跳躍や端正なラインの中に、憧れと葛藤が同時に表現されます。高度な跳躍技術や正確な脚さばきが求められる一方で、力強さだけではなく、ロマンティック・バレエ特有の柔らかさと気品を備えた動きが不可欠です。 現代のクラシック作品とは異なり、このヴァリエーションでは技巧の誇示よりも、人物像と様式美が踊りの質を決定づけます。ジェームズという人物の繊細さと理想への憧れを体現することによって、《La Sylphide》が持つ詩的で幻想的な世界が立ち上がります。 Trailer:Dancer/Hugo Marchand(パリ・オペラ座エトワール)
アンシェヌマン(パリ・オペラ座バレエ学校より)
パリ・オペラ座バレエ学校では、長い歴史の中で受け継がれてきた独自のトレーニング体系に基づき、進級試験において「アンシェンヌマン(enchaînement)」と呼ばれる課題が踊られています。これは単なるエクササイズではなく、フランス派クラシック・バレエの様式と身体の使い方を体現する、教育的レパートリーのひとつといえます。 アンシェンヌマンには、明確なポール・ド・ブラ、洗練されたエポールマン、音楽と密接に結びついた足運びなど、パリ・オペラ座特有のスタイルが凝縮されています。動きは一見簡潔でありながら、身体の配置や質の違いがそのまま踊りの完成度として現れる点に特徴があります。 今回取り上げるアンシェンヌマンは、パリ・オペラ座バレエ学校で実際に試験課題として用いられているものであり、同校で長年培われてきた伝統的な様式美に触れる貴重な機会となります。舞台作品とは異なる形で、クラシック・バレエの基礎がどのように芸術性へと結びついているのかを示すレパートリーです。
Toss of a Dice - イリ・キリアン振付
<振付家 イリ・キリアン(Jiří Kylián)について> <作品「Toss of a Dice」について>
1947年、チェコスロヴァキア(現チェコ共和国)プラハ生まれ。プラハ音楽院およびロンドンのロイヤル・バレエ・スクールで学んだ後、1968年にシュツットガルト・バレエ団に入団し、ジョン・クランコのもとで振付家としての才能を開花させた。1975年にネザーランド・ダンス・シアター(NDT)の芸術監督に就任し、同団を世界で最も影響力のあるコンテンポラリーダンス・カンパニーの一つへと発展させた。また、若手ダンサーのためのNDT II、ベテランダンサーのためのNDT IIIを創設するなど、ダンサーのキャリアの可能性を広げる革新的な取り組みでも知られている。これまでに100以上の作品を創作し、詩的で哲学的な世界観と独自の身体表現によって、現代ダンス界を代表する振付家として国際的に高く評価されている。
グループAでは、Jiří Kylián振付作品『Toss of a Dice』のレパートリーに取り組みます。この作品は、偶然性や予測不可能性といったテーマをもとに創作されており、独特の身体の流れや繊細なニュアンス、空間との関係性が重要な要素となっています。クラスでは振付を学ぶだけでなく、キリアン作品に特徴的な身体の使い方や動きの質、音楽との関係性を探求しながら、作品の世界観や表現の深さを理解することを目指します。
ケン・オッソラ振付&クリエーション
<振付家 ケン・オッソラ(Ken Ossola)について> <クリエーション&レパートリーについて>
スイス出身の振付家、指導者。1989年にネザーランド・ダンス・シアター(NDT II)に入団し、2年後にNDT Iへ昇格。Jiří Kyliánのもとで多くの作品に出演し、Hans van Manen、William Forsythe、Ohad Naharin、Nacho Duatoなど世界的振付家の作品を踊った。NDT在団中にはKyliánの代表作『Bella Figura』のオリジナルキャストとしても活躍。その後は振付家・教師として活動し、世界各国のカンパニーや教育機関で指導を行うとともに、Kylián作品のリハーサル指導やレパートリーの継承にも携わっている。
Ken Ossola自身の振付作品の素材をもとに、参加者のレベルに合わせて振付を発展させながら取り組みます。振付の一部を学ぶだけでなく、作品がどのように生まれ、形作られていくのかというクリエーションのプロセスにも触れていきます。クラスでは、自分の身体の使い方や空間の方向性への意識を高めながら、動きの質や表現の可能性を探求します。創作の過程を体験することで、ダンサーとしての理解を深めるとともに、学びと自信につながる経験を得ることを目指します。