レパートリー作品&振付家
Experience the Art of Great RepertoireシルフィードのVa.(ピエール・ラコット版/ラ・シルフィードより)
《La Sylphide》は、19世紀ロマンティック・バレエを代表する作品のひとつで、1832年にパリで初演されました。幻想的な存在であるシルフィード(空気の精)と青年ジェームズの出会いと悲劇を描いたこの作品は、ロマンティック・バレエ様式の成立を象徴する重要な作品として知られています。
現在上演されているピエール・ラコット版は、失われていた当時の資料や記録をもとに、振付家 Pierre Lacotte が19世紀の様式を丹念に再構築したものです。装飾的な技巧よりも、柔らかな上半身の表現、繊細な足運び、そして物語と密接に結びついた演技性が重視され、ロマンティック・バレエ特有の詩的な世界観が色濃く表れています。 第2幕のシルフィードのヴァリエーションは、人間ではない存在であるシルフィードの儚さや浮遊感を表現する踊りです。軽やかなステップや流れるような腕の動きが特徴的で、まるで空気の中を漂うような質感が求められます。細やかな足さばきやバランスの安定性だけでなく、身体の力みを感じさせない自然な動きと、どこか現実から離れた神秘性を保つことが重要になります。 このヴァリエーションでは、技巧そのものを際立たせるのではなく、存在そのものの美しさを表現することが求められます。触れられそうで触れられないシルフィードの幻想的な魅力を体現することで、《La Sylphide》が持つ繊細で詩的な世界が舞台上に広がります。 Trailer:ダンサー/オレリー・デュポン(元パリ・オペラ座エトワール/元パリ・オペラ座芸術監督)
ジェームズのVa.(ピエール・ラコット版/ラ・シルフィードより)
ジェームズのヴァリエーションは、若き貴族である主人公の内面を映し出す踊りです。婚約者との現実的な人生と、シルフィードへの理想的な憧れとの間で揺れ動く彼の感情が、踊りを通して表現されます。 軽快な跳躍や明快な脚さばきが特徴であり、正確なテクニックと安定した身体コントロールが求められる一方、単なる力強さや技巧の誇示では成立しません。伸びやかなラインや上半身の柔らかな使い方の中に、青年らしい純粋さや気品を表現することが重要になります。 ジェームズは現実と幻想の狭間で揺れ動く人物であり、その繊細な心理を踊りの中に映し出すことによって作品のドラマが深まります。理想を追い求める青年の姿が表現されることで、《La Sylphide》の物語世界がより鮮やかに立ち上がります。 Trailer:ダンサー/ヒューゴ・マルシャン(パリ・オペラ座エトワール)
アンシェヌマン(パリ・オペラ座バレエ学校より)
パリ・オペラ座バレエ学校では、長い歴史の中で受け継がれてきた独自のトレーニング体系に基づき、進級試験において「アンシェンヌマン(enchaînement)」と呼ばれる課題が踊られています。これは単なるエクササイズではなく、フランス派クラシック・バレエの様式と身体の使い方を体現する、教育的レパートリーのひとつといえます。 アンシェンヌマンには、明確なポール・ド・ブラ、洗練されたエポールマン、音楽と密接に結びついた足運びなど、パリ・オペラ座特有のスタイルが凝縮されています。動きは一見簡潔でありながら、身体の配置や質の違いがそのまま踊りの完成度として現れる点に特徴があります。 今回取り上げるアンシェンヌマンは、パリ・オペラ座バレエ学校で実際に試験課題として用いられているものであり、同校で長年培われてきた伝統的な様式美に触れる貴重な機会となります。舞台作品とは異なる形で、クラシック・バレエの基礎がどのように芸術性へと結びついているのかを示すレパートリーです。
Bella Figura / Toss of a Dice - イリ・キリアン振付
<振付家 イリ・キリアン(Jiří Kylián)について> <作品「Bella Figura」について> <作品「Toss of a Dice」について> キリアン作品特有の流れるような動き、空間の使い方、音楽との緻密な関係性を探求しながら、作品が持つ繊細なニュアンスや深い表現世界への理解を深めていきます。
1947年、チェコスロヴァキア(現チェコ共和国)プラハ生まれ。プラハ音楽院およびロンドンのロイヤル・バレエ・スクールで学んだ後、1968年にシュツットガルト・バレエ団に入団し、ジョン・クランコのもとで振付家としての才能を開花させた。1975年にネザーランド・ダンス・シアター(NDT)の芸術監督に就任し、同団を世界で最も影響力のあるコンテンポラリーダンス・カンパニーの一つへと発展させた。また、若手ダンサーのためのNDT II、ベテランダンサーのためのNDT IIIを創設するなど、ダンサーのキャリアの可能性を広げる革新的な取り組みでも知られている。これまでに100以上の作品を創作し、詩的で哲学的な世界観と独自の身体表現によって、現代ダンス界を代表する振付家として国際的に高く評価されている。
本作は、「美しさ」とは何か、「舞台」と「現実」の境界とは何かを問いかける、キリアンを代表する傑作のひとつです。作品全体を通して、光と影、静寂と緊張感、繊細さと力強さが交錯し、観る者に深い印象を残します。ダンサーたちは単に美しい身体を見せるだけではなく、不完全さや脆さ、内面的な葛藤までも身体を通して表現していきます。
『Bella Figura』は、パリ・オペラ座をはじめ、ヨーロッパの主要なバレエ団でも上演され続けている重要なレパートリーであり、現在も世界中のダンサーや観客を魅了しています。キリアン独自の有機的なムーブメントと演劇性、そして音楽と身体が一体となった世界観は、多くのカンパニーで高く評価されています。
この作品は、偶然性や予測不可能性といったテーマをもとに創作されており、独特の身体の流れや繊細なニュアンス、空間との関係性が重要な要素となっています。クラスでは振付を学ぶだけでなく、キリアン作品に特徴的な身体の使い方や動きの質、音楽との関係性を探求しながら、作品の世界観や表現の深さを理解することを目指します。
ケン・オッソラ振付&クリエーション
<振付家 ケン・オッソラ(Ken Ossola)について> <クリエーション&レパートリーについて>
スイス出身の振付家、指導者。1989年にネザーランド・ダンス・シアター(NDT II)に入団し、2年後にNDT Iへ昇格。Jiří Kyliánのもとで多くの作品に出演し、Hans van Manen、William Forsythe、Ohad Naharin、Nacho Duatoなど世界的振付家の作品を踊った。NDT在団中にはKyliánの代表作『Bella Figura』のオリジナルキャストとしても活躍。その後は振付家・教師として活動し、世界各国のカンパニーや教育機関で指導を行うとともに、Kylián作品のリハーサル指導やレパートリーの継承にも携わっている。
Ken Ossola自身の振付作品の素材をもとに、参加者のレベルに合わせて振付を発展させながら取り組みます。振付の一部を学ぶだけでなく、作品がどのように生まれ、形作られていくのかというクリエーションのプロセスにも触れていきます。クラスでは、自分の身体の使い方や空間の方向性への意識を高めながら、動きの質や表現の可能性を探求します。創作の過程を体験することで、ダンサーとしての理解を深めるとともに、学びと自信につながる経験を得ることを目指します。